上場株式の相続手続きは、預金や不動産の相続とは異なる手続きが必要です。
株式は金融商品のため、証券会社や発行会社とのやり取りが発生します。遺産分割協議で株式の分配方法を決め、名義変更の手続きを行う必要があります。
ここでは、上場株式の相続に必要な一連の手続きについて、専門家の見解を交えながら詳しく解説します。相続税の評価方法や注意点など、押さえておくべきポイントをお伝えします。
上場株式の相続手続きの流れ
まずは上場株式の相続手続きの全体的な流れを確認しましょう。
被相続人の保有株式の有無を調査する
まずは被相続人が上場株式を保有していたかどうかを確認する必要があります。
- 被相続人宅へ証券会社から送付された「取引残高報告書」などがないか確認する
- そのような書類がない場合は、「証券保管振替機構」へ開示請求を行う
証券保管振替機構は「ほふり」と呼ぶこともあります。
利用には費用がかかりますが、株式の有無を確実に把握することができますので、上場株式を持っていた可能性がありそう…という方は利用されると安心です!
遺産分割協議で株式の分配方法を決める
被相続人の保有株式がわかれば、相続人間で遺産分割の協議を行います。株式はどの相続人に分配されるのかを決める必要があります。
遺産分割協議では、全相続人の合意が必要です。株式の分配方法については、次のような方法があります。
- 株式を全て売却し、売却代金を相続人で分配する(換価分割)
- 株式を相続人ごとに分割し、各自の持ち分として保有する
- 特定の相続人が株式を全て相続し、他の相続人にはその分の代償金を支払う(代償分割)
いずれの方法を選ぶにしても、相続人全員の同意が必要です。また、株式の売却や分割に際しては、税務上の問題や市場の動向にも注意が必要です。
株式の名義変更手続きを行う
遺産分割協議が整えば、名義変更の手続きに移ります。株式は無記名の金融資産なので、相続を証明する書類を揃え、証券会社に名義変更を依頼します。
株式の名義変更には、被相続人と相続人の戸籍謄本のほか、遺産分割協議書や印鑑証明書などの書類が必要になります。初めてだと大変な手続きですが、配当金の受取りや株式の売買ができなくなるため、ゆっくり確実に対応しましょう!
名義変更の手続きが完了すれば、株式は相続人それぞれの名義の証券口座に振り替えられます。これにより、各相続人が自分の持ち分を管理・運用できるようになります。
相続税の申告と納税を行う
上場株式の価値を評価し、その金額に応じて相続税の申告と納付が必要となります。申告期限は相続開始を知った日から10ヶ月以内です。
上場株式の評価方法や書類の具体的な内容については、次に詳しく解説します。
上場株式の評価方法(相続税評価額の算出)
上場株式の相続税評価額は、「1株当たりの価格×株数」で計算します。
ただし、1株当たりの価格は、以下の4つの株価の中から最も低い価格を選んで計算するルールになっています。
- 相続開始日の終値
- 相続開始日の属する月の1ヶ月間の終値平均
- 相続開始日の前月の1ヶ月間の終値平均
- 相続開始日の前々月の1ヶ月間の終値平均
例えば、2024年3月20日に被相続人が亡くなり、1,000株の任天堂の株式を相続した場合を考えてみましょう。
- 3月15日の終値: 5,670円
- 3月の終値平均: 5,490円
- 2月の終値平均: 5,630円
- 1月の終値平均: 5,800円
この場合、最も低い価格は2の5,490円となるので、評価額は5,490円×1,000株=5,490,000円と計算されます。
このように上場株式は市場の需給で株価が日々変動するため、最も低い価格を選ぶ評価方法が採用されています。
上場株式の評価は専門知識が必要ですが、株価情報はインターネットで簡単に調べられます。
自分で調べることが不安な方は、証券会社に評価額付きの残高証明書を発行してもらうと安心かと思います!相続税申告をご依頼頂けると私も確認しますのでよりご安心されるかと思います。
上場株式の名義変更手続き
被相続人から相続した上場株式を適切に管理するためには、名義変更の手続きが必要不可欠です。
名義変更の手続きは、以下の書類を証券会社に提出することで行えます。
- 名義変更依頼書
- 被相続人と全相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 全相続人の印鑑証明書
これらの書類を揃え、被相続人の口座を開設していた証券会社に提出します。手続きが完了すると、相続人それぞれの名義の証券口座に、相続分の株式が振り替えられます。
株式の名義変更は、証券会社によって求められる書類が若干異なる場合があります。事前に書類の確認を行い、漏れのないよう十分注意しましょう。
名義変更の手続きが完了すれば、株式は相続人の所有物となります。自身の意思で売買や運用を行えるようになります。
上場株式を売却する場合の手続き
相続により取得した株式を売却する場合、さらに手続きが必要となります。全相続人で一括売却するのか、個人個人で売却するのかによって、手順が変わってきます。
全相続人で一括売却する場合
- 相続人の中から代表者1人を選定
- 他の相続人全員から代表者に対し「売却委任状」を提出
- 代表者が証券口座を開設し、保有株式を全て振り替える
- 代表者が株式を売却し、売却代金を相続人で分配
個人個人で売却する場合
- 各相続人が証券口座を開設
- 遺産分割協議書に基づき、各相続人の口座へ株式を振り替え
- 各自で売却タイミングを決定し、株式を売却
売却後の所得税についても考慮が必要です。株式売却益は「譲渡所得」として課税対象となり、申告が必要です。
株式の売却時には譲渡所得税が課されるため、相続税申告時に合わせて相談ください!
相続税の申告と納税
相続した上場株式の評価額に基づいて相続税の申告を行う必要があります。相続税の申告は、「相続開始を知った日から10ヶ月以内」に行わなければなりません。
相続税の計算方法
相続税の計算は以下のステップで行います。
- 各相続人の相続分を決定
- 各相続人ごとの課税価格を計算
- 各相続人の課税価格の合計額から基礎控除額を差し引く
- 課税価格に対する税率を適用して税額を計算
例えば、総額1億円の相続財産があり、相続人が妻と子供2人の計3人であった場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。この基礎控除額を相続財産の総額から差し引いた残額が課税対象となります。
相続税の申告書類
相続税の申告に必要な書類は次のとおりです。
- 相続税申告書
- 遺産分割協議書
- 財産評価明細書(不動産、株式、預貯金等の評価を記載)
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
- 相続人の住民票
- その他必要な書類
上場株式の相続に関する注意点
上場株式の相続には、以下の点に注意する必要があります。
名義変更を迅速に行う
名義変更を怠ると、配当金の受取りや売買ができなくなります。
遺産分割協議が整い次第、速やかに手続きを行いましょう。
株式の評価額に基づく相続税の申告
株式の相続税評価額を適正に算出し、相続税の申告を行いましょう。
評価額の算出にミスがあると、税務調査で指摘される可能性があります。
遺産分割協議のトラブル防止
株式の分割方法について相続人間で合意が得られない場合、トラブルに発展する可能性があります。第三者の専門家を交え、公平に協議を進めましょう。
相続におけるトラブルを未然に防ぐためには、遺産分割協議を慎重に行うことが重要です。
相続人全員の意見を尊重し、公平な分配方法を決めましょう。
相続税の特例と軽減措置
上場株式を相続する際には、いくつかの特例や軽減措置を利用できる場合があります。
特に注目すべきは「配偶者控除」と「小規模宅地等の特例」です。
配偶者控除
配偶者が相続する場合、配偶者控除を利用することで相続税の負担を大幅に軽減することができます。配偶者控除は、配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額まで非課税となる制度です。
小規模宅地等の特例
被相続人が居住していた宅地や事業用の宅地については、「小規模宅地等の特例」を適用することで、相続税評価額を大幅に減額することができます。
小規模宅地等の特例を利用するには、一定の要件を満たす必要があります。
ここではすべてを解説しきれませんが、別の機会に解説したいと思います。
相続対策としての生前贈与
相続税の負担を軽減するためには、生前贈与を活用することも有効です。
生前贈与は、被相続人が生前に相続人へ財産を贈与することで、相続財産を減少させ、相続税の負担を軽減する方法です。
贈与税の非課税枠を活用
贈与税には、年間110万円の基礎控除があります。この非課税枠を利用して、毎年少しずつ財産を贈与することで、相続財産を減少させることができます。
贈与には、暦年贈与と相続時精算課税の2種類があり、それぞれ相続税への持ち戻しの考え方が異なります。
贈与を使った相続対策も複雑になってきていますので、相続対策をされたい方はご相談ください!
教育資金や住宅資金の一括贈与
教育資金や住宅資金の一括贈与も有効な相続対策です。教育資金の一括贈与は、祖父母が孫に対して教育資金を贈与する場合、最大1,500万円まで非課税となります。また、住宅資金の一括贈与は、直系尊属から住宅取得資金を贈与された場合、一定の条件を満たせば非課税となります。
教育資金や住宅資金の一括贈与は、大きな相続対策効果があります。
相続税対策のみでなく、お子様やお孫様の将来をサポートすることができるため、ご家族の幸せにも繋がるでしょう。
上場株式の相続と税務調査
上場株式の相続においては、税務調査が行われることもあります。税務調査は、相続税の申告内容が適正かどうかを確認するために行われます。
税務調査の対象となるケース
税務調査の対象となるケースには、次のようなものがあります。
- 相続財産の評価額が高額な場合
- 申告内容に不自然な点がある場合
- 相続税の申告が期限内に行われていない場合
税務調査は、相続税の申告内容が適正かどうかを確認するためのものです。相続税の評価額や申告内容に不備があると罰金が課されることもあります。
税務調査による無駄なストレスを抱えないためにも適正な申告を行うことが重要です。
税務調査に備えるための対策
税務調査に備えるためには、以下の対策が有効です。
- 適正な評価額の算出
- 必要な書類の整備
- 専門家の助言を受ける
税務調査に備えるためには、適正な評価額を算出し、必要な書類を整備しておくことが重要です。
相続専門税理士の助言を受けながら、申告内容を見直し、必要な対策を講じましょう。
上場株式の相続でよくあるご質問
- Q上場株式の評価方法は?
- A
上場株式の相続税評価額は、「1株当たりの価格×株数」で計算します。
ただし、1株当たりの価格は、以下の4つの株価の中から最も低い価格を選んで計算するルールになっています。- 相続開始日の終値
- 相続開始日の属する月の1ヶ月間の終値平均
- 相続開始日の前月の1ヶ月間の終値平均
- 相続開始日の前々月の1ヶ月間の終値平均
- Q上場株式の評価額は調べてもらえますか?
- A
もちろんお調べします。
また、証券会社から残高証明書を発行してもらう際に、評価資料ももらえるため、そちらも併せて確認しましょう。
- Q株式を持つのは不安ですが…
- A
遺産分割で株式の代わりに別の財産をもらうか相続後に売却しましょう。
売却にかかる確定申告もご依頼頂けると対応できますのでご安心ください!
まとめ
上場株式の相続手続きは、他の財産と比べて特有の手続きや注意点が多くあります。被相続人の株式の有無を確認し、遺産分割協議で分配方法を決め、名義変更手続きを迅速に行うことが重要です。また、相続税の評価方法や申告手続きについても、専門家の助言を受けながら適正に進めることが求められます。
相続税の負担を軽減するための特例や生前贈与の活用、税務調査に備えるための対策も重要です。相続手続き全般にわたり、適切な準備と対応を行うことで、スムーズな相続を実現しましょう。
ご相談窓口
初回のご相談は 無料 です。
まずはお気軽にご相談ください。